今宵、月の照らす街で
多くの省庁が建ち並ぶこの霞ヶ関の朝は、一日の中で最も人に溢れている時間帯。


その数え切れない人込みの中で、どれ程の負の感情が存在し、どれ位大きな魔を生み出すのだろう。


『負』の集合体、高密度の存在・『陰』は時として形を成し、破壊衝動のみを根源に置いて行動する『魔』となる。


魔は、人の数に比例して出現率が上がる。


そう意味でも、政都に宮内庁支部を置いたのは得策だったのかも知れない。


その政都宮内庁18階対策室オフィスには既に多くのスタッフが出勤していた。


「おはよう」


扉を開けた多香子の声にスタッフが振り向く。


「おはようございます、室長」


挨拶をしながら執務室の扉を開けると、あずさがお茶を煎れていた。


「あはよう、あずさちゃん」


「おはようございます。早速ですが庁長官より連絡を頂きました」


「あら。ありがとう」


庁長官。すなわち京都宮内庁長官には、定期的に対策室の報告を行っている。連絡とはその事なんだろうと思いながら、多香子は早速デスクに置いてある電話の受話器を手にした。


短いコールが3回鳴る。


『京都宮内庁長官執務室で御座います』


艶やかな女性の声がした。

< 133 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop