今宵、月の照らす街で
成二たちが4人で食事している一方、政都宮内庁は帰宅時刻を過ぎ、一般職員は帰路に着いていた。


その中で、これからが仕事の本番となる唯一の部署が対策室。


いつもなら小さい案件でも転がりこんで来るにも関わらず、今日は一件も依頼が無い。


「なんか暇っすね」


剣一郎が夕刊を読みながら多香子に話しかける。


「う〜ん…何もないのはイイ事なんだけどね…」


「政都で今まで前例はありましたか?」


京都から派遣された梅宮が荒々しい声で多香子に問い掛ける。


その顔の距離があまりにも近すぎて、接待席のソファに座る多香子は思わずのけ反る。


「無いです」


「あずさちゃん」


「少なくとも政都宮内庁対策室発足以来、任務が無い日は存在していません」


さすがは政都宮内庁対策室長補佐官。


「だとしたら何かおかしい」


梅宮は顔をしかめる。


「嵐の前の…静けさか」


杏里が呟いた。


多香子に届いた、杏里の小さな声。


多香子はその言葉が嘘であって欲しいと、切に願った。
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