今宵、月の照らす街で
桜を、大きな口が喰らう瞬間、イプシロンは歓喜に満ち足りた笑みを浮かべた。


「そこまでよ」


背後の、凛とした声に振り向く。


その声の主を見たイプシロンの顔が青ざめる。


「な………!!」


目の前に立つ、龍の波動を身に纏う、その姿。


己の、巨大化した口を遥かに上回る、殺気に満ちた龍の双牙。


「な…何者だ…!」


その波動を従える者は、静かに瞳を閉じた。


「小龍沢八龍衆筆頭…凪家現当主・凪千鶴」


名乗った言葉が、波動と殺気を乗せてイプシロンにぶつかる。


―――か…格が…違いすぎる…


対峙した者の直感。


それが恐怖と変わって、イプシロンの身体の動きを封じる。


「うわああああ!!!」


その恐怖を振り払う様に、イプシロンはがむしゃらに千鶴に仕掛けた。


「さようなら。もう会うこともないわね」


千鶴の、龍の波動が集中した左脚がイプシロンの顔面にぶつかる。


その蹴りは先刻の桜のモノとは違い、イプシロンの姿を完全に飲み込んだ。
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