今宵、月の照らす街で
纏わり付いたモノは、イプシロンの陰。それをもとに、桜の脚からイプシロンの姿が再生した。


「な―――!」


一瞬、桜の心が乱れる。


だが、その一瞬が、今までの戦況を180度回転させる。


野蛮な笑みで、歯を剥き出しにしたイプシロンの右拳が、無防備な桜の脇腹を襲う。


「――――ッッッ!!」


橙色の、如月の波動を集中させたが、少し遅かった。


気付いた時には、桜の背中はビルの壁に打ち付けられていた。


「あ―あ!!本気出したらコレかよ!つまんねぇなぁ…」


イプシロンは首を鳴らす。桜に視線を移すと、微かに動く、しなやかな指が見えた。


「まだ生きてやがる…」


イプシロンは大股で一歩踏み出し、左腕をグルグル回した。


「喰ったら旨いかな」


左腕が、大きな牙を持った口に変化する。


「う…………」


桜が眼を開いた時には、その、唾液が滴る口が大きく開いていた。


―――ここまでか…


桜の瞳から、希望の光が消えた。そして、絶望の闇が眼前を覆いつくした…
< 173 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop