今宵、月の照らす街で

JR神田駅前ビル屋上

時は千鶴がイプシロンを倒した時から遡る。


神田町駅前ビルは、何の変哲もなく、駅から出る人々を見守っていた。


だか、それも一瞬にして一変する。


突然発生した、漆黒の竜巻はビルを中心に、天に伸びる墓標となり、近くを通る山手線は脆くも崩れ去る。


「命は」


変化のないビルの屋上で、明人が口を開く。


「脆いものだな…たかだか気を宿した風で散るとは…」


嘆きの言葉とは反対に、明人の口角が上がる。


「所詮、人間とは神の創った人形。人形は増えすぎた。今や神がその姿を隠して生きる道を選ぶ事となってしまった…人形よりも崇高なる血を継いだ我々が、だよ。明奈」


明人の見下した視線の先には、突然の嵐に戸惑い、悲鳴を上げる人々がいる。


「私達は、神じゃない。たまたま、力を宿した血を持った人間。人の運命を掌握出来る程、崇高な存在じゃないわ」


明奈の言葉を聞いた兄は、哀れんだ様な視線を向ける。


「お前は物分かりがイイと思っていたのだが…」


「物分かりはいいけど、馬鹿な発言を鵜呑みする程、間抜けじゃないのよ」


明奈が右手に扇を手にする。


その姿を目にした明人は、もう一度、明奈に視線を投げた。
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