今宵、月の照らす街で
ぶっ飛んだ明人から、明奈は目を離さなかった。


「風月林は兄さんの最も得意とした型。背後の取り方も、全部コピーした。兄さんなら…」


「避けられるハズ…そう言いたいのか、明奈?」


立ち上がる明人から、陰の波動が溢れ出す。


明人の背には、鎌を持つ“陰”の死神が佇んでいた。


「妹の成長を見たかったからね。予想以上だ」


明人の眼が朱に染まる。


―――あの日と同じ眼…!


明奈はその瞳を前に硬直する。


「お前の言う通り、俺はお前に勝った事は無い」


明人に向かって大気中の“陰”が集束する。


「お前に勝つ、と言うのは、俺がお前を殺してしまう事を意味するのだから」


殺気が突風となって明奈の肌にぶつかる。


明奈は、数多くの闘いの中で抱いた事のない感情を抱いた。


―――怖い…


今まで知らない兄の殺気に脚の震えが止まらず、それは戦慄となって全身に広がる。


押し潰されそうなプレッシャーに、明奈は強く眼を閉じて、自身の身体に必死にすがりついた。


眼の前が真っ暗になる。


すると、ふと殺気が消えた。


明奈は恐る恐る眼を開く。


眼の前には、108の大剣を従えた、神の血を継ぐ者の勇ましい背中があった。
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