今宵、月の照らす街で
「残念。もう帰らなきゃ」


アルファは月を見上げて呟いた。


「君、ケンイチロウくんだっけ?楽しかったけど、お別れだ」


「ふざけんな!」


剣一郎は身体から炎を形作った波動を纏いながら、アルファとの間を詰める。


しかし、繰り出した太刀筋は空を斬った。


アルファが居た場所に既に姿は無く、気配だけが佇んでいた。


剣一郎は刃の向く先を失い、小さく舌打ちをする。


親友の腕を斬り落とした男との闘いは、呆気ない終わりを見せた。


燃え盛る闘志と、それに呼応した炎を無理矢理押さえ込む。


紘子と直仁の元へ戻る途中、杏里が救護班を連れてビルの屋上の扉を開ける姿が見えた。


―――畜生!!


蛍剣一郎は汗をかきながら飛び起きた。


事件から4日目の朝。


あの日以来、見る夢は決まって、あの闘いの追憶だった。


―――また夢かよ!


怒りが具現化され、無意識のうちに紅蓮の波動が漂う。


「コラ!落ち着きなさい!」


「あだー!」


チョップが剣一郎の頭に減り込む。


「全く…また同じ夢見て同じ事してるなんて」


涙目の剣一郎が顔を上げると、溜息混じりに紘子が立っていた。
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