今宵、月の照らす街で
「明奈か」


「貴方、何してんのよ。あれだけ使命感を抱いていたのに…」


「…」


「長官、悲しむよ?」


明奈の視線と梅宮の視線が重なる。明奈が捕らえた視界の中に、“長官”の単語に唇を舐める仕草は無かった。


「何があったの?」


「何もない。あるのは、使命と忠誠だけだ」


―――忠誠?


「誰に対して?」


「誓った主に対して、だ」


「何を?」


「悲願達成」


明奈は、ひたすら見つめた。自分が知る梅宮カオルの仕草を思い出し、そこから何かを得る為に。


「貴方、昔からそう。私達が付き合おうかって時だって…結局は使命だ、って…使命を果たす為に、君を傷付けるかも知れないから、無理って…」


明奈は俯いた。


「結局、使命に命を投げようとしてる」


「そう言った筈だ」


「でも、貴方は誇りを持ってた。こんな事、望んでする筈、無い!」


「人は変わる」


梅宮が唇を舐めた。同時に、明奈は直感する。


「嘘つき」


その言葉に、梅宮はハッと顔を上げた。


それでも、明奈は梅宮を責め立てる事はなかった。


「もう止めて…」


明奈の瞳に、涙が浮かんだ。
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