今宵、月の照らす街で
「私、兄さんをまた殺したの」


「!?」


「兄さんが死に際に言った“京都に行け”という言葉。京都に何があるの?」


梅宮は、ショックを隠しきれないまま、質問に答える事が出来ない。


「明人さんが…」


「…」


明奈は言葉を投げ掛けない。しばらく感情のやり場の無い、梅宮を見つめていた。


その無言の時間は、長い間続いた様に続き、梅宮は無機質な白い床を、明奈は梅宮を見ていた。


「辛かったろう…」


梅宮が自ら沈黙を破った。


「だが、同情から主を裏切る事は出来ない。それが今の我が誇りだ。貴様が明人さんを誇りに思っている様にな!だから俺は主の言葉を疑う事無く信じ、従う!」


白の拘束室に、梅宮の声が響いた。


「もう一度言う。我が誇りに賭けて、主は裏切らない」


揺るがない瞳から来る、決意。


「わかった。じゃあ、貴方は、大量殺人を認める事になるけど…」


「構わない」


「同胞殺しは絶対禁忌。それもわかってる?」


「わかってる」


「貴方の結末も?」


「死だ」


明奈は黙り込み、拘束室の出口に手をかけた。


「…ありがとう。そしてサヨナラ」


重い扉が軋む。


明奈はそのまま監視室を突っ切り、廊下に向かった。


成二は明奈を追うが、途中で結衣に手を捕まれた。


「盗むのはここまで。これから先の師の姿は、見ないであげてね」
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