今宵、月の照らす街で
桜がハッとなる。


「陰陽の逆転…まさか…月那主宮が蓮舞天照院に変わって天を治めるってコト…?」


『そうだ。フランスでの情報収集は有意義だった様だな、如月。やはり先代を殺すだけでは足らなかったか』


「じゃあ…父さんと母さんは…!」


桜の声が震えた。


『私が消すよう指示した』


「ふざけるな!!」


橙色の波動が爆発した様に、桜から溢れ出た。殺気を剥き出しに駆け出した桜の肩を、多香子が掴む。


「放して!」


狂気の宿った、紅い瞳が多香子を睨む。


「下がりなさい」


多香子は言葉に気を宿した。桜は我に返り、一歩身を引く。


「今年の皇居で、見えない式を発動させたのは貴方?」


『あぁ。陰を宿した式だ。陰の特性は“同化”。簡単に景色と一体化出来た』


「目的は?」


間髪入れず、多香子が問う。


『蓮舞天照院暗殺などは期待していなかった。神の一族を何処まで欺けるかの実験だ。流石に小龍沢は欺けなかったが、な』


確かに、真っ先に気付いたのは成二だ。


「じゃあ、半鬼の存在は?」


『我が傑作だ。人と魔。相反する存在の反発力が生み出す力がここまでとはな』


多香子はその言葉に沈黙した。だが、多香子の怒りに反応し、大気にはプレッシャーが疾り出した。
< 219 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop