今宵、月の照らす街で
「爺さん…名前、何てぇんだ?」


多香子が眠るその家の前で、京介が問い掛けた。


「名はオメガ」


爺さんと呼ばれた陰は、そう名乗った。


「オメガ。終わりを冠する言葉だな」


「如何にも」


オメガの背中から腕が生え、老いた顔の両側から、それぞれ憤怒を表した顔が浮かんだ。


「名は西洋。なのに姿は阿修羅か」


「貴様等に慈悲等要らぬ。第6の地獄まで一気に突き落としてくれるわ」


「…くくッ」


殺気を放つオメガに、京介が下を向く。


「ハーッハッハッハ!!!」


「…!」


いきなりの京介の嘲笑に、オメガは眼を大きくした。


「何が可笑しい…!!」


余りの唐突さに驚いていたオメガは、すぐに我へと返り、京介に問い詰める。しかし、その言葉も虚しく、京介には己の声しか届いていない様子だった。


「ふざけるな!」


老獪な身体とは思えない程、早い動きが、一瞬で京介の背後を取った。


そして4本の腕が京介を背後から貫く。


「!!!!」


しかしそこにあったのは、京介の影。


「てめぇがな」


オメガがその声を聞いた時には、既にその顔がコンクリートに減り込んでいた。


「あーあーあ。大した事吐く奴程弱ぇ。ちったぁ真面目にやれや」
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