今宵、月の照らす街で
壁の残骸が、予兆もなく吹き飛ばされる。


そこには、口から流れる血を拭う成二が立っていた。


その姿を、闘いの中で横目に見た紘子が少し安堵の息を漏らす。


成二のその視線は、もう一方の崩れた壁から離れない。そのまま、動きを見せない相手に向かい、地面を蹴った。


一気にトップスピードに至り、その力を利用し、大きく跳び上がる。


すかさず大剣を構え直し、剣先を下に向けた。埋まったままのアナンベルを捉えようという瞬間、アナンベルもまた、瓦礫を風で吹き飛ばす。


予期せぬ瓦礫の襲撃に、成二は身体を捻り、瓦礫を切り捨ててアナンベルに至る道を作る。


「見えていないにも関わらず、攻めるとは。慌て過ぎだ」


「!」


切り開いた道に、しかも成二の間合いに、アナンベルが刀を構えていた。


―――やばい!


「まだ、若いな」


アナンベルの瞳に、殺気の炎が燈った。


天叢で防ぐまでの間に、成二の身体に一本の刀傷が刻まれた。
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