今宵、月の照らす街で
風を纏った大剣と太刀がぶつかり、その度に天玉院の間に突風が拡がった。


成二とアナンベルは、互いに一歩に退かなかった。


正しくは、一歩も動いていない。


それが攻めでも、回避でも、半歩すら動かせばパワーバランスが崩れる。それを互いに理解していたから、ノーステップでの闘いを繰り広げていた。


目まぐるしくぶつかる剣閃。


もう、何手ぶつかったかわからなくなった時、成二とアナンベルが右手を引いた。


同じタイミングで、同じ程度の力で、右手同士をぶつける。


二人の手に込められた、凝縮された風がぶつかり合う。


相反する力は優劣をつけることなく、二人の男を対極の壁まで吹き飛ばした。


二人は荒々しく壁へと叩きつけられ、大きな轟音と共に壁が崩れる。


天玉院の間で闘う対策室のスタッフは、その音の方向へと意識を向け、成二の身を案じるが、鬼神や鬼蜘蛛、半鬼、更には妖狐までもがその隙を与えてくれない。


その様子を知るのは、皮肉にも、蓮舞天照院を足蹴にする廉明だけだった。
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