今宵、月の照らす街で
ガミガミと頭ごなしに怒られ、何も言い返せない多香子は、黙って目を閉じて頷くだけ。


さすがに國井総理が大臣をなだめるが、その説教は終わりそうもなかった。


「お言葉ですが、大臣。私からすれば、これが最善だったモノと思われます。最悪の場合には、区内に留まらず、東京政都や京都、いや、日本全土がこの脅威に曝される事になってしまった筈です」


唯一同席を認められた千鶴が弁護する。


その様子を隣の部屋から紘子、京介、あずさが眺め、タイミングを合わせたように珈琲を口に運んだ。


「姉さん、大変そう…」


「室長だからな。しょうがねぇだろ」


「それに議題そのものが、一般な方には通用しにくいモノですから」


あずさの言葉に、一般人と自分達が如何に違う世界に立たされているか実感をする。


それでも、非現実的な現実に生きる以上、ここから逃げる事は出来ない。


3人は同じ事を頭に浮かべ、またタイミングを謀ったように珈琲を口に含んだ。
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