今宵、月の照らす街で
その夜。


病室にいる成二は、何故か寝付く事が出来なかった。


理由もなく身体を起こし、指に風を集めてみる。


自らを魔を斬る刀と考え、がむしゃらに傷つきながら生きようとしていた日が、この間の筈なのに、遠い日の様に感じる。


―――これからはどう生きていくんだろう。


ふと、廉明の顔が浮かんだ。


憎しみと力に囚われて生きた男の人生。自分ならばどうしただろうか。


境遇が違いすぎるため、答えは中々出なかったが、少なくとも自分が姉や仲間に恵まれている事は幸せに感じた。


―――俺はみんなと生きていくんだ。


風が空を駆け巡るように、一つでは何も出来ない。


風は空があって、初めて自由に広がる。


成二はカーテンを開けて、自分が生きる世界を見た。


今宵は満月。街は、月に照らされている。


成二はその中、一つだけ願い事をした。


今宵、月の照らす街で。
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