今宵、月の照らす街で
久しぶりにその姿を眼にする。


小龍沢家に代々継がれる、退魔刀・嵐紋菊一文字正宗真打[アラシモン キクイチモンジ マサムネ シンウチ]。


滅多に戦線で戦うことのない多香子の愛刀が、その乱刃を夕日に淡く照らして敵を見据えてる。


「オオオオオオオオオオ!!!!!」


敵の咆哮。


再び成二の耳に衝撃が来た。


痛みに耐えられずにまた耳を押さえたが、視線の先に立つ多香子はピクリとも動かずに鬼神と対峙している。


その刀を握る左手が、咆哮が止んだ瞬間に動いた。


そう思うと一陣の風が舞い、小龍沢の宝刀は姿を消していた。


剣線を眼で追うことが出来ず、何が起こったのか全く理解出来ない。


「たか姉…?」


多香子は弟の声に振り向き、にこっと微笑んだ。


「もう大丈夫だよ」


その後ろで時が止まったように静止していた鬼神の身体に一閃が閃く。


そして爆発したかの様な衝撃波が音を立てず広がり、一瞬呼吸が困難になる程の、すさまじい突風が江戸城迎賓館前石畳を包み込む。


その中心に居た式神である鬼神は、沈黙に包まれて“型”に姿を戻した。
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