涙の終りに ~my first love~
恋のテディボーイ
だが”帰りのバス”というのが難所で、
これが朝のバスなら顔ぶれはいつも同じなのに
帰りはいつもの同じバスでも必ず聖子が乗り合わせるとは限らなかった。

単純なオレは帰りのバスに聖子がいないとそれだけで
「早く明日になってこの時間にならないかな」とふて腐れていた。

気になり始めてから数週間たった辺りで大胆にもオレは話しがあるからといきなり聖子をバスから降ろし、デパートの小さな喫茶店に連れ込んだ。
”思いたったが吉日”じゃないけどこの時この瞬間みたいなものがあった。
「オレの事覚えてる?」と何気ない会話から始め聖子も
「当たり前じゃん、小学生以来だね」と突然バスを降ろされたわりには落ち着いた優しい笑顔だった。間髪入れずオレは本題に入り、
「今、彼氏いるの? フリーならオレと付き合わない?」と当たって砕けろ的なノリで告白した。何故か真子の時とは別人のような強引さがあった。

聖子は少し戸惑った表情をした後すぐに
「真子とはどうなったの?」と窓の外を足早に歩く人ごみを見ながら囁いた。
オレは聖子の横顔を見ながら
「真子とは中学の時に終わったよ」と即答した。

今思えば聖子が真子の名を出すのは自然な流れだけど、
当時のオレは「何故その名を出す」と少しムッとしていた。

続けて「真子って妊娠してたよね?」と聞かれ、心の中で
「なんでそんな事知ってんだよ!」と動揺しながら
「そんな事もあったかな」と今度はオレの方が窓の外を見ながら呟いた。

しばらく沈黙があった後、「ユウジってそこまでした真子を捨てたんだね」と耳を疑うような言葉を吐かれ思わず立ち上がり
「バカ! オレがふられたんじゃい!」と不名誉な言葉を店内に響きわたるような
大声で叫んでしまった。

他のお客さんからの冷たい視線に気付き、慌てて座り直したが心の中で
「こりゃダメだな、早く帰りてぇ」と諦めモードに入っていた。

だが聖子は
「これからよろしくね!」と思わぬ返事を返してきた。

聖子の予期せぬ言葉に戸惑いながら
「本当にオレでいいの?」と念押しすると
「ユウジの方から言い出したくせに」と言われ二人で顔を見合わせ笑った。

この日から聖子との交際が始まり、オレが告白したこのデパートで帰りに待ち合わすようになった。

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