涙の終りに ~my first love~
I・愛・哀
聖子との交際が順調でこれから楽しい思い出を沢山作ろうと思い始めた矢先に、
真子から手紙が来た。
それは同じ中学出身で高校では科の違うヤツが、駅で偶然会った真子から頼まれて運んで来てくれたものだった。

手紙を運んでくれたそいつには丁寧に御礼を言ったが、
ポケットの中で手紙を握りつぶし
「今頃になって何が言いたいのか、バカにすんなよ!」とオレは手紙を読まなかった。

家に帰ってからも真子の手紙は封を切らずに放ったらかしのままで、近い内に燃やそうと思っていた。

そして忘れもしない運命の土曜日を向かえる事になった。

あの土曜日の出来事はセピアカラーの映画のように今でもはっきり覚えている。
当時の学校は今のように土曜日が全て休日ではなく授業が午前中だけあり、
その日のオレは午後から勝史達とバンドの練習でスタジオを抑えていたので、
聖子と会う約束もしていなかった。

時のいたずらと言うか女神のきまぐれの瞬間は偶然が重なり合わなければ起こり得ない事だった。
オレはバスに乗るといつも決まって対向車が見える右側に乗る。
それも一番後ろの席。
ガキの頃に運転手さんのすぐ後ろに座り、自分も運転している気分を味合うのが好きだったのが始まりで年を取るにつれその座席が段々下がってゆき、結局一番後ろになった。
だがこの日のオレは右側が空いていたにも関わらず、何故か左側に座っていた。

スタジオでの練習も終わりメンバーとも別れ、忙しかった一日を終え帰りのバスの中で一人ギターを抱えながらボンヤリ窓の外を見つめていると、公園のベンチに真子がいた。
慌ててバスの窓に顔を摺り寄せ彼女の方を見ると、動いている車内からでも泣いているのがはっきり分かった。

「なんで!!! 何故泣いてんの!!!」

オレは激しく頭を掻きながらバスの窓から見えなくなるまで真子を追った。
真子の姿が見えなくなると、オレは車内で涙の訳を必死に考え

「涙を流すほどの事・・・ 誰かにそんな酷い事をされたのか?」

終わってしまった恋といってもせめて次のバス停で降りて真子の元に駆け寄り、
声を掛けるぐらいしてあげてもよかったんじゃないか? 
だって泣いていたんだし。


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