涙の終りに ~my first love~
聖子の死
やがて高校の3年間も終り、無事に卒業するとオレは地元の民間企業に就職をした。
高校の時から自動車教習所に通っていたので卒業と同時に免許は手にしていた。
勝史はさらに上を目指して当然のように大学へ進んで行ったけど、
オレは自分で働いて自分の金が欲しかった。

初任給って9万ぐらいだったかな。
今思えばあれだけ働いてたった9万って馬鹿にしてるとしか思えないけど、
始めて給料袋を手にした時は嬉しくて両親に小遣いとして気前良く配ったりした。

そこだけ話すと美談で親孝行な息子だけど、数日後金に困るとすぐに回収した。

はじめての車は日産の4ドアセダンだった。
中古車だったけど納車された時は嬉しくて家の車庫に入れて車の中で寝たりした。
毎日磨いて車高を落としたりコンポにスポイラーと改造してゆき毎日が充実して楽しかった。

そんな風に日々の暮らしが満たされていくと、学生時代の事を想い出すようになり、
「今頃、真子はどうしてるんだろう・・・ 聖子は元気かな」なんていつも考えるようになっていた。

人間の記憶って不公平だと思う。
特に真子の事を想う時は散々嫌な思いをされ裏切られてきたはずなのに
楽しかった記憶しか思い出せない。
そんな時いつもオレは「よく考えろ、良い事ばかりなら別れるはずがない」と
自分に語りかけ必死で嫌な出来事を思い出すようにしていた。

でもそれで嫌な記憶を連れ戻せても、すぐに優しい笑顔達にかき消され長続きはしなかった。

そしていつしか過去の恋愛は輝いて見えるものなんだと思うようになっていった。

そんなある日、久しぶりにバンドのメンバーで会おうという事になり、
みんなで集まって食事をした。
勝史以外は就職して働いており、話題と言えば上司の悪口や仕事がキツいだの
給料が安いなど居酒屋で誰もが口にする愚痴ばかりだったけど、
久しぶりの再会という事もあってバカ騒ぎをしていた。

半年振りの再会で楽しい酒が飲めるはずだったが、美容師になる夢を追いかけて修行していた有澤の言葉に、オレの心臓は一瞬で氷ついてしまった。

「そう言えば中学の同級生だった聖子っていただろ? あいつ亡くなったってね」
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