涙の終りに ~my first love~
first kiss
一日僅か数分の真子との会話、それだけでも学校に行く価値があった。
勉強の出来ないオレが中間や期末のテストまでも楽しみにするようになった。
早く帰れる、ただそれだけの理由でテストそのものは嫌いじゃなかったが、
テスト中は部活がなく真子と一緒に帰れる楽しみがプラスされた事により倍増した。

付き合いが始まってからも一緒に帰る約束、そして日常の他愛もない会話まで手紙でやり取りした。

その手紙さえも自分達では渡さず、いつもマミや周りの誰かを使った。
だから周りのみんなにはかなり迷惑なカップルだったと思う。

はじめて一緒に帰った日の事は今でもはっきり覚えている。
4階のトイレ前でドキドキしながら彼女を待ち何度も鏡を見ては顔をチェックした。
そして彼女が現れ二人の間にもう一人入れるような距離を空けてぎこちなく歩いた。

彼女と二人で帰った道のり。
異性と初めて二人きりで歩いたあの僅かな距離は一生心に残るものとなった。

俯き加減の照れた彼女、沈黙を気にして言葉を捜すオレ。
あの頃の真子は何も話さず、会話も途切れがちだった。
少しでも長く二人でいたい、心ではそう思ってるくせに会話が途切れるとその場から逃げ出したい気持ちだった。

そして順調に交際が続いて行き、夏休みを向かえる頃から普通に話せるようになった。
それでも手を握るわけでもなく、もちろんキスなんて想像もつかない純粋な付き合いだった。

夏真っ盛りの熱帯夜の頃、オレは毎晩意味なく真子の家に行っていた。
行っていたと言っても真子の部屋が見える位置に自転車を止め外から眺めるだけ。
良く言えばロミオとジュリエットだけど今の表現なら完全なストーカーだね。
ただストーカーじゃないとはっきり言えるのは真子もそれを知っていて部屋の中からカーテンを明けオレの居るであろう辺りに手を振る、それを確認したオレはそのまま帰る。

今思えば自分の事ながら理解に苦しむ行動だったが、あの頃はそれだけで満足していた。
夏が過ぎ秋の紅葉が彩る頃に初めて手をつないだ。

そして冬の気配を感じる頃に初めてキスをした。


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