涙の終りに ~my first love~
BE A GOOD BOY
「進一、来賓のお偉いさん達がオマエが来るのを待ってて式が始まんないんだけど?」と声を掛けると
あいつは”ユウジこそ会場に入らなくて何してんの?”と
憎めないつぶらな瞳が囁いていた。

すぐに又トランクをイジり始めた奴は、
「先に始めててくれって言ってたのにあのハゲッ!」と笑いながら舌打ちをしていた。

天井部分を強引に剥ぎ取られ、無理やりオープンカーにさせられたセドリックらしきその車の助手席に座わるとシートに深く身を沈め、
幸せが一気に逃げていくような深いため息をつくと

”元気な姿・・・ 今日はそれだけでよかったのにな”と改めて思った。

無造作に背もたれを倒すと目の前には透き通った青空が広がり

”この広い空の下、そのどこかで真子は元気で暮らしている”

そう呟いて心を落ち着かせた。

しばらくして運転席に乗り込んで来た進一は「初乗り一万円です」とふざけながら
助手席のダッシュボードを開けるとコンビニのおにぎりを取り出し、
「シーチキンはオレが食べる」と言いながらオレに同じシーチキンをくれた。

「なんでこんなとこからおにぎりが出てくんの? それにシーチキンはオレが食べるって元々シーチキン二つしかないじゃん」

とツッコミたかったが、何も言わず進一に手渡されたおにぎりをほおばった。

おにぎりを口いっぱいに詰め込んだ進一はいきなり
「20年後ってオレ達どうしてるのかな?」と語り出し、
真子の事で頭がいっぱいのオレは、突然20年後の事を言われてもマジメに答える気がせず、
「20年後は40歳だな」と冷たく返した。

すると何故か会話が止まってしまい、進一が気の毒になったオレは仕方なく頭の中で20年後をシュミレーションしてみた。

「20年後か・・・ 40になるまでには武道館で永ちゃんを見たいな・・・ それと修学旅行で行った京都にも行ってみたい・・・ そしてその頃には結婚して子供もいるだろうな・・・」なんて考えていた。

結局、余談ながら二十歳の頃に想像した20年後のオレは、武道館の永ちゃんも京都も叶えていない。

青空を眺めながら二人して空想にふけっていると、
いつしか記念式典も終り会場の中から新成人達が溢れてきた。

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