赫いロールシャッハ【短編】
赫いロールシャッハ


「何故?」


と問いかけた時、その人はこう答えた。


「淋しそうに見えたから」


私は更に疑問に思う。
“淋しそうに見えた”からと云って、私が実際に淋しい訳じゃない。
ただ、そう見えたと云うだけで。

勿論、“淋しそう”に振る舞っていた訳でもない。


『淋しそう』ってなんだろう?


淋しいと感じるのは人それぞれ別々のもので、そのように見えるのなら尚更、それはその人の主観以外のなにものでもないのに。



その人は私にことわりもなく、『淋しい』レッテルを貼った。


しかも、慰めているつもりなのか、一夜の快楽と云うオマケまで付けて寄越した。


『自己満足のカタマリめ』


私は心の中で、そのレッテルを貼り返してやった。思考も自己満なら、その行為も自己満でしかない。
ありふれた快楽しか与えられないと云うのに、その人のふかすタバコのケムリはみちみちと満足気だった。



なるほど、『幸せそうな奴』故の『淋しそう』かと納得した。






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