【短】きみに溺れる
幸せだ、と思った。
今、私は、幸せだ。
たとえこれが、借り物の温もりだとしても
今だけは、朝が来るまでは、私だけの温もりだと。
それだけでもう、充分だと。
「マーヤ……?」
ふっと目を覚ました彼が、私の頬に手を伸ばしてきた。
「また泣いてんのか」
涙をぬぐってもらいながら、私は微笑む。
「ありがとう……レン」
「ん?」
「私の願いをきいてくれて」
レンは静かに首をふった。
「マーヤと朝まで過ごすことは、俺の願いでもあったから」
温かい胸に顔を押し付け、声をださずに泣いた。
ただ流れるだけの涙が、肌を濡らしていった。
「マーヤ……
俺は、お前をどれだけ泣かせてきたんだろう」
彼の声がふたりきりの部屋の響く。
その言葉は夜にまぎれ、行き場もなく消えていく。