【短】きみに溺れる
“マーヤ”
彼が発音する、異国の音楽のような響きが、好きだった。
“マーヤ”
私を遠くまで連れていった声。
連れていくだけで、決して引き戻してはくれなかった声……。
ざくっ、と足元で小さな音がした。
レンはまだ、まぶたを下ろしたまま、手を合わせている。
大好きだったよ。
私は心の中でつぶやいた。
だけどもう、これ以上続けてはいけない。
誰よりも好きで、大切な人。
地面の砂利が音を立てないように
ゆっくりゆっくりと、何も言わずに、彼から離れた。
去っていく私を、彼の瞳には映してほしくなかったから。
――こうして私は
レンのいない世界へと戻った。