【短】きみに溺れる
レンの前から姿を消した私は、翌週には正式にバイトを辞めていた。
携帯も新しいものに替え、彼との連絡手段を絶った。
それでも、夜中にふと部屋の外から足音が聞こえると、もしかして彼が来てくれたのではと思い
まだそんな風に考える自分が情けなくて、朝まで泣いて過ごすことも多かった。
私はいつか、レンを忘れることができるのだろうか。
本当にそんなことが、私に可能なのだろうか。
先の見えない暗闇の中で、心を支配するのは寂しさより、恐怖に似た想いだった。
やがて就職活動の時期に入り、忙しい日々を過ごすうち
少しずつ、彼を思い出す時間が減っていった。
完全に忘れることなどできなかったけれど、レン以外のことを考える時間が、徐々に増えたのだと思う。
小さな食品メーカーに就職してからは、多忙な毎日を必死でこなし
流れるように5年の年月が過ぎた。
そんなときだった。
会社帰りに街を歩いていた私が
偶然、さやかさんとすれ違ったのは。