【短】きみに溺れる

レンとさやかさんのカップルを知らない生徒は、あの学校でほとんどいなかったと思う。

その少数派のひとりが、私だった。


同じ生徒会で、頻繁にあのふたりと顔を合わせていたくせに

彼らが付き合っていることを、ずっと知らずにいた私。



『さやかと同じ大学に行くんだ』


そう告げられたのは、生徒会の任期を終えた日の放課後だった。

ふたりきりの廊下は空気が割れそうなほど寒く、窓から枯れた桜の木が見えた。


『……付き合ってるんですか?』

『うん』


突然、彼の顔が別人のように見えて、死にそうなほど心細くなった。


今までまったく気づきませんでした。震えた声でそう言うと

彼は悲しそうに笑い、ゆっくり口を開いた――




その後のことを思い出すと、私は過去に飲みこまれ、記憶の境界線をなくしてしまう。


なつかしいと思える日が来ることを願いながら

もう、2年が過ぎた。




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