one contract

撫でる手を引っ込め様とした時、僕のその手は暖かい手に握られた。

「‥‥スミレ、気が付いた?」
「‥アオちゃん、ボク‥」
「倒れたんだよ、部活中に」
「え、えぇ!?そうだったの‥ッ!?」

ガバッと勢い良く起き上がったスミレは、あぁ~っ!振り付け遅れちゃうよぉ~!!と泣き真似をしながら言った。
全く、ダンスの事じゃなくて、少しは自分の体の心配しなよ。
そう思いながらも、視線が行ってしまうのはお前の首筋。
分かってる。
スミレがまた倒れてしまうかもしれないって事。

でも、欲しい。

僕はベッドから降り、スミレと向かい合う様にして立った。

「‥スミレ」
「何?アオちゃん。あ、要る?血」

最近は僕の要求に何も言わずに応じる様になった。
むしろ積極的。

嬉しいんだけど‥‥困るんだよね、それが。

だって、そのせいで最近疲れ気味でしょう? 
今日みたいにまた倒れるよ?

「         」
「‥‥‥え?」

一言囁いて、血を頂く。

「‥‥ッ、アオ、ちゃん?なんて言ったの?よく聞こえなかったんだけど‥」
「‥気にしないで、良いよ」

慣れてきたのだろう、スミレは痛みを感じて叫ぶ事が無くなった。
でも、目からは今にも溢れて頬を滑り落ちそうな量の涙。
甘い血が二つの跡から流れ出てきて、僕はそれを一滴も落とさぬ様に丁寧に舐め取った。

「ん、・・う、・・・・ッ」

スミレ、僕のせいでお前は倒れたんだ。
きっと。
他の誰でもない、

僕のせいで。



僕は今、お前を大事な存在だと思ってしまった。



誰よりも。
何よりも。

おかしいよな。
“吸血鬼”と“餌”なだけの関係でいた筈なのに。
なのに、お前は僕にとって



大事な存在。



“餌”としてでなく、一人の“人”として。
“スミレ”として。

だから、出来ないよ。
僕のせいでお前が弱っていくのに、僕がお前の血を求める事は。

だから‥‥―――――


―――――『‥‥これで、最後だから』



< 20 / 63 >

この作品をシェア

pagetop