one contract

one contract -mark 2- 菫目線




「ふぁ~‥‥」

何回目だろう。
さっきから大きなあくびを繰り返すばかり。

今は入学式の真っ最中。
先生の話だとか、来賓の挨拶だとかさ、それが長くて長くて。
その御陰で感覚がおかしくなってしまったのかな。
何だかそれが子守唄の様に聞こえて、眠くなってきた。

『次は、生徒会長挨拶です』

え?次は何て?
ボクの意識はもうろうとして、視界が霧の中にいる様に霞んでぼやけていた。

ああ、ヤバイかも‥。
本当に寝てしまいそう‥‥。

これから挨拶する人の足音かな?
とても心地良く聞こえて、ボクに睡魔の止めを刺そうとしているみたいで‥‥。
その足音と共に、女の子の黄色い声が耳に刺さった。
まるで、鋭く尖った針の様に。
その声のせいでというか、御陰で睡魔から止めを刺される事も無く、視界から少しずつ霧が晴れた。

『新入生の皆さん、御入学おめでとう御座います』

ボクはなんとなくその声のする方に視線を送った。

‥‥何処かで聞いた事がある声‥。

そしてその姿を見た瞬間、眠気も霧も一気に吹き飛んだ。
ステージに立って挨拶をしていたのは、紛れも無く‥‥



昨日傷の手当てをしてくれた人。



隣の人に、今何?って訊くと、生徒会長の挨拶。と返された。
スゴイ、生徒会長だったんだ。
頭良いんだろうな~、なんて思いながらその人に視線を送る。
挨拶をしている生徒会長さんに、周りの女の子は皆頬を赤くして、目はもう釘付け。
てか、目がハートマークになってるもんね。
何となくだけど‥‥分かる気がする。
ボクもカッコいいって思ったし。

『生徒会長、浦波 葵(うらなみ あおい)』

へぇ~、生徒会長さん、“あおい”って名前なんだ。
挨拶を終えた生徒会長さんがステージから降りる姿は、姿勢も気品も良くてとても綺麗だった。
一瞬、こっちの方を見た時に目が合った気がしたけど‥‥



気のせい、だよね。



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