FAKE‐LAKE
「……一度、会ってみたいな」
 独り言めかしたレイの言葉にアンジェは振り返る。黄緑色の瞳は腕に隠されていて表情は分からない。
 スープを作るために沸かしたお湯がぐらぐらと沸騰する音だけが部屋に響く。
「なんてね。へへ、冗談!」
 顔を上げたレイは、黙って自分を見ているアンジェに元気な笑顔で笑いかけた。
 ……本音だ。アンジェは心の中で呟く。
 レイがこうやって笑顔でごまかす時はたいてい本音だ。それは半年以上一緒に暮らして分かった彼の癖。
 生い立ちが、そして置かれている状況がどうあれレイも普通の少年だ。誰とも接触できずに隔離された生活は寂しいのだろう。
 その気持ちがわかるだけに、そしてその願いを叶えれば彼が捕まるかもしれないという事を知っているだけに、アンジェはレイの笑顔にどう反応してあげたらいいか分からなかった。
「これ何? 何かの勉強?」
 話を変えるためか単に興味が出たのか、レイは地図をぺらぺらと開いて尋ねた。
「ああそれ、地図だよ」
「地図?」
「そう。少しお勉強しようと思ってね」
 アンジェえらーい、とレイはからかう。
 偉いだろー、と冗談で返したアンジェの考えは違う所にあった。
 ――絶対に守る。レイを。
 ふつふつと沸いているスープに目を落としたアンジェの表情に笑みはなかった。
 自分たちがどこにいて博士はどこにいるのか。ここが見つかった時にどこへ逃げたらいいのか。地図はそのための情報収集の一つだった。
 ――絶対に“弟”を博士には渡さない。逃げて逃げて逃げきってやる。
 そう決意しつつもどこか不安を拭いきれないのは、自分の体が丈夫では無いせいか。それとも自身も追われていると薄々気付いているせいか。
 レイに気づかれないように溜息をつくアンジェの左腕がまた小さく疼きはじめた。
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