FAKE‐LAKE
 正直、すぐに決められなかった。
 アンジェを助けたい。でも、基地に戻りたくない。
「分かった……でもせめて、アンジェがよくなるまでそばに居させて欲しい」
 レイの苦渋の末の返答を鼻で笑い、博士は懐に手を差し入れた。
「その間に逃げるのか」
「違う! あんたは嘘つきだから、アンジェを本当に助けてくれるのか見届けるんだ!」
「お前が」
 ゴツ、と額に何かを当てられる。冷たく硬いそれが銃だと理解するのにさほど時間は要らなかった。
「お前にある選択肢は二つだけだ。今私と戻るか、戻らずにアンジェを見殺しにするか」
 黙っているレイに冷たい笑みを浮かべ、博士は兵に言った。
「帰ろう。レイはアンジェを見捨てる気だ」
 俯いているレイの横を兵が通り過ぎていく。
 “自分”を捨てるか、アンジェの死か。どちらかしか選択肢はない。
 自分の自由か、兄の命か。
 レイの瞳から悔し涙がこぼれ落ちた。
 基地に戻れば“人”では無くなる。道具。兵器。待っているのは虐待と実験。
 でも戻らなければアンジェは苦しみながら死んでしまう。僕を助けてくれた、大好きな兄が――
「待って!!」
 悲痛な声でレイは叫んだ。坂を下りかけていた博士はその言葉を待っていたかのように振り返る。
「行く、から……基地に戻るから……お願いアンジェを助けて……」
 震えているレイの腕を乱暴に掴み、博士は低く笑った。
「いい子だ」
 アンジェの治療を指示し、博士はレイを無理矢理立ち上がらせる。
「お願いだ、せめて最後にアンジェの顔」
 最後まで言わせず、博士はレイのみぞおちを勢いよく突いた。小さく呻き、レイはぐったりと博士の足元にくずおれる。
「手間かけさせやがって」
 舌打ちしながら兵はレイの口を塞ぎ、目隠しをして吐き捨てた。
「道具のお前に自由なんてないんだよ」
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