FAKE‐LAKE

 ◇ ◇ ◇


「ちわーっ! 配達屋のニールですー」
 ひときわ元気な声で挨拶し、左手に大きな紙袋を抱えたニールはいつものように右手でドアを引いた。
「あれ?」
 いつもと違い、ガチ、と音がしただけで開かないドアに不意打ちをくらい、バランスを崩したニールの手から荷物が落ちかける。
「っと、危ない」
 両手で荷物を支え、ニールはアンジェの家を見上げた。
 いつもなら鍵が開いているはずなのに。不思議に思い、ニールはドアを強くノックしてみる。
「アンジェさーん? 留守ですかー?」
 応答無し。
 ニールは首を傾げて再度ノックした。数秒の静寂の後、階段を転げ落ちるような音が聞こえた。
「す、すみません!」
 ガチャ、と勢いよく開かれたドアに顔をぶつけそうになり、ニールはのけ反った反動で尻餅をついた。袋から赤い林檎が二個、ころころと芝生の上を転がる。
「ちょっと寝過ごしてしまって……大丈夫ですか?」
 慌てて駆け寄るアンジェのいつもと違ういで立ちを見て、ニールは焦げ茶色の目を見開いた。
 寝癖だろう、左側の髪がぴょこんとはねている。服はまだ寝間着のまま。起きたばかりなのか、まだ目元が少しとろんとしている。
 いつもはきちんとし過ぎな程――ニールの判断基準によればだが――きちんとしているアンジェの、珍しく生活感あふれる姿にニールはものすごく親近感を感じた。
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