FAKE‐LAKE
「ねぇアンジェ、まだ先?」
「もうすぐ。ほら、あの木が目印だよ」
 アンジェは数メートル先の木を指差した。太い幹の中程に握りこぶし位の穴が開いている。
「ここから湖のそばに下りられるんだ」
 二人は緑の葉が少しずつ色を変えはじめた太い枝の下をくぐった。
「うわぁ」
 先に行ったレイが驚いたような声を出した。アンジェも続いて枝をくぐる。
「すごい! アンジェの絵と同じ!」
 綺麗だね、とレイが指さす景色はいつかの色と同じだった。
 よく晴れた青空。遠くに霞んで見える街並。きらきらと輝く、碧い湖。
 アンジェは一瞬、時間が戻ったような錯覚に襲われた。思わず切り株の横に視線がいく。
 ずぶ濡れの、体に傷を負った少年はそこにはいなかった。
「……やっぱり、だ」
 ぽつん、と呟いたレイの言葉で我に帰る。
 レイは草むらに膝を抱えて座り、湖をまっすぐ見つめていた。
 穏やかな風が通り抜け、水色の髪をふわ、と揺らす。
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