FAKE‐LAKE
「……どうして、湖?」
 どうしようか考えるより早く、アンジェはそう尋ねていた。
「どうしてって……」
 レイは不思議そうに聞き返す。アンジェが何故そう聞くのかわからない、というふうに首を傾げている。
 心配しなくても大丈夫……なのかな。
 アンジェが黙って考えていると、レイはぱっと笑顔を見せ元気な声で言った。
「あのね、天気が良いから!」
 アンジェが描いたあの風景を自分も見たいんだ、と笑う。その言葉を聞いてアンジェはひとまず安心した。
「じゃ、行こうか」
「やった!」
 レイは嬉しそうにぴょんとジャンプし、僕も仕度しようと二階に上がった。
 小さな胸のうちに渦巻くのは期待と不安。とん、とん、と階段を一段上がるごとにレイの顔から笑みが消えていった。
 屋根裏部屋に上がり、大きく深呼吸する。
「……大丈夫」
 レイは天窓から見える青空を見上げ、自分に言い聞かせた。
 あの場所に行くのは、怖い。もし追っ手に見つかったら……。
 黄緑色の瞳の中、不安が揺らめく。
 それでも、確かめたい。自分の目で。あの色を。
「大丈夫。……絶対に」
 小さな声で呟いた独り言が、階段を上がる途中のアンジェに聞こえていた事を、レイは知らない。


「見て見て! あそこに鳥がいる!」
「この花はなんて名前?」
「あの雲、ふわふわしてて美味しそう!」
 湖に着くまでの道、レイはいろんな物に興味を示してはアンジェに話し掛け、はしゃいでいた。
 無理をしているのか、素直に楽しんでいるのか。
 微笑みながら相槌をうつアンジェは、湖に向かうレイの本心がわからず気が重かった。
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