FAKE‐LAKE
 ぽん、と頭に温かい手が触れる。
「綺麗な国なんだね」
 アンジェの声が、風にのってふわりと耳に届いた。
「……うん」
くぐもった声で答え、レイは顔を上げた。湖を見つめる彼の瞳は少しだけ濡れている。
「暖かくて、空気が澄んでいて、ね。大きな通り沿いに建物が並んでて」
 レイは記憶の中の“湖の国”を思い出しながら、ぽつりぽつりと話し出した。
「建物も、水も碧くて。見えるもの全部が透き通ってるんだ。光が当たるときらきらして、すごく綺麗で」
 相槌をうちながら、アンジェは“湖の国”を想像しつつスケッチブックを開く。
「そこに誰かがいたって記憶は無いから……本当にあるのか分からないけど、『ここがお前の生まれた場所だよ』って言われた事だけ覚えてる」
 誰に言われたのかは覚えてないけれど。そう言ってレイは目をつぶった。
『ほら、見てごらん。ここが湖の国――お前が生まれた場所だよ』
 おぼろげな記憶、遠い声。苦しい日々の間、心の支えだった故郷。
 レイはアンジェの方に目を向けた。
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