FAKE‐LAKE
 アンジェは黙って何かを描いていた。指に何色も色鉛筆を挟み、真剣な表情で色を重ねていく。
「それと、ね。多分、湖の国には、僕の……本当の……」
 レイは話を続けようかと思ったが、アンジェが相槌を打たなくなったので口を閉ざした。なんだか邪魔をしているように思えて。
「ごめん、僕、うるさい?」
 申し訳なさそうに尋ねると、アンジェはちらと上目使いでレイを見た。うんともいやとも言わず、もう一度スケッチブックに視線を落とす。
 レイが再び謝ろうとした時、アンジェはスケッチブックを彼に手渡した。
「……これ、」
 その絵を見てレイは驚いた。アンジェは絵の説明はせず、ただ微笑んでいる。そこに描かれていた絵は、レイの記憶にある“湖の国”にとても似ていた。色は記憶と全く同じだった。
「どうして? どうしてわかるの? アンジェ、“湖の国”に行った事あるの?」
 矢継ぎ早に質問するレイに、アンジェは色鉛筆をしまいながら答える。
「レイの話聞いてて、なんとなくそんな感じかなと思って」
「すごい……すごいよ、アンジェ。天才だ」
 レイは絵を眺めながらアンジェの才能を何度も褒めた。
 すごく、嬉しかった。誰にも信じてもらえないと思っていた故郷の事を、こんな風に描いてもらえるとは思わなかった。
 アンジェは僕の話を信じてくれたんだ。それだけで、また涙腺が緩んだ。
「いつか、帰れたらいいね」
 温かい声と優しい言葉に、レイは無言で何度も頷いた。
 アンジェは湖に――いや、湖の向こう側に目を向ける。
 “湖の国”はどこにあるんだろう? そしてそこは、人が幸せに暮らせる所なんだろうか?
 彼の瞳は白く霞んで見える対岸の街を、そしてその向こうの何処かにあるまだ見ぬ国を見つめていた。
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