FAKE‐LAKE
「いつも瓶から紅茶に入れてたなって、今朝思い出したんだ」

アンジェは蜂蜜の瓶を見つめて穏やかに笑っている。ニールは心底ほっとした。

レイの名前を口に出来るくらい立ち直ったんだ。

なにしろレイを亡くした後のアンジェは大変だった。精神的に不安定になり、何度もレイの後を追おうとした。

教授とニールが交代でアンジェについて見張っていなければ、今彼はここにいないだろう。

「そういや最近ロジェのおっさんに会ったか?」

ニールの問いにアンジェは紅茶を飲みながら頷いた。

「この間、ちびっこ達と来たよ。みんなで夜遅くまで遊んで楽しかった」

窓の外を見て軽く息をつき、アンジェは独り言のように呟く。

「二度と信じないって思ってたのにな……」

クス、と笑ってニールに視線を戻した。

「人って、本当は信じたいから“信じない”って言うのかもね」

僕だけかも知れないけれど、と言ってアンジェは肩を竦める。


ゆらゆら揺れる杏の木の影。二人は五年前の事を思い出していた。


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