FAKE‐LAKE
「不思議な子だな、アルは」

最初に泊まりに来た時は家出少年かと思ったが、と宿屋の主人は奥さんに話しかけた。

「きっと優しいご両親に育てられたんだろうな」

「それは違うと思うわ」

「どうして」

奥さんは少しためらった後、小声で尋ねた。

「あなたはアルがどうして首まで肌を隠す服ばかり着ているか知ってる?」

いや、と首を振る夫に彼女は話しだす。

「一度、雨の日にアルがずぶ濡れで帰って来て。タオルを渡そうと思って部屋に行ったの」

子ども達に手品をせがまれているアルの笑顔を見ながら続ける。

「その時、アルが『親はいない』って言う理由がわかったわ。目を逸らしたくなるくらい酷い傷痕だった。多分、虐待されて育ったのね」

彼女は悲しそうに呟いた。

「アルは傷を負う痛みを知ってる。その痛みを乗り越えて来てる。だから、人を傷つけないし嫌な思いをさせない。多分、本当の意味で優しいのね」

そして強い。腕力が、じゃなくてね。

そう言って夫を振り返った。

「だから、みんなアルに引き寄せられるんじゃないかしら」


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