FAKE‐LAKE
そう、この人は僕を作ってくれた人。僕に命をくれた人。

この人がいなければ僕はこの世界にいなかった。

「……おとうさん」

博士はレイをしっかりと抱きしめた。言葉に出来ない深い感情が声を震わせて、上手く話せない。

「レ、イ……」

以前は暴力を振るった手が、大切そうに優しく頭を撫でてくれる。

レイはぎゅっと博士に抱き着いた。

この人も辛かったのだ。大切な者を奪われ、眼前に死を突き付けられ意志に反する事を強要され。

深い悲しみは怒りを呼び、怒りは憎しみを生む。そして憎しみは人を狂気へと駆り立てる。

それは新たな悲しみを生み、そして悲しみは怒りを――

だから、僕はあなたを恨まない。本当のあなたは優しいと、どんな人も真っ白な優しさのカケラを持っていると信じたいから……。

博士の腕の中、あたたかい温もりにいろんな感情が溢れだし、言葉が出てこなかった。

とんとん、とノックが聞こえる。

「ああ、監視人が迎えに来た」

長々と引き止めて悪かったな、と博士は腕を緩めて微笑む。

その痩せた頬に軽くキスをし、レイは明るい笑顔で言った。

「また、来年の春にね」


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