FAKE‐LAKE
「酸っぱかったら、蜂蜜かけて食べればいいよね」
 レイの得意げな表情につられてそうだねと相槌をうったものの、アンジェは蜂蜜杏の味を想像出来ずにいた。試してみた事がないからだ。
 杏に蜂蜜、合うかな。ああでも、意外に美味しかったりして。
 早く食べたいなぁ、と窓に頬杖をついて呟くレイに、アンジェは笑いかけた。
「レイって食いしん坊だね」
 少食の割に何でも食べたがるし、と付け加える。この間はガラス玉を食べようとしていた。口に入れる前に慌てて止めたけれど。
「だって、美味しいんだもん」
 ぷくりと頬を膨らませ、レイはアンジェを振り返った。
「食べ物がこんなに美味しいなんて思わなかったから」
 美味しいと幸せになるんだ、とレイは笑う。嬉しそうな彼とは反対に、アンジェの笑顔は微かに悲しげな色を帯びた。
 レイが家に来たからといって、何か特別なご馳走ばかりを振る舞っている訳ではない。一応料理はしているけれど、簡単なスープと果物とパンという食事がほとんどだ。
 つまり、出会う前のレイは普通の食事すら与えられていなかったという事になる。
 それは、どうして?
 出会った当時の、やせ細って傷だらけのレイを思い出し、アンジェは小さく溜息をついた。
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