FAKE‐LAKE
 思い付いたのは、たった一言。ニールみたいにもっと上手に言葉を操れたらいいのに。
 アンジェは自分に溜息をつき、深く俯いたレイの頭をそっと撫でた。
「……っ、……」
 レイの小さな手がアンジェの服を掴む。
 親が小さい子にするように、アンジェは震えている背中をぽんぽんと優しく叩いた。


 レイは泣いた。
 初めて、声を上げて泣いた。
 今まで耐えてきた言葉に出来ない程の苦しみや、堪えてきた悲しみ。口に出来なかった様々な思いや抑えてきた怒り。
 その全てを吐き出すかのように、大声で泣いた。
 アンジェの何気ない一言が、心を縛り付けていた重たい鎖を断ち切ってくれたような、そんな気がした。


「眠っちゃったか……」
 アンジェは自分の肩に寄り掛かっているレイを見て呟いた。窓から差し込む夕日のオレンジ色が少しずつ眩しさを落としていく。
「レイ」
 声をかける。軽く揺すってみたが、レイは起きなかった。そっと離そうとしたが、レイの手はアンジェの服を固く握りしめている。
 諦めてアンジェはそのまま寝かせておく事にした。
『“お前は特殊なんだ”っていつも言われた』
 困惑したレイの表情を思い出す。
『お前は人間じゃないって。“道具”なんだって――』
 その、人を人と思わない“博士”の発言に、心の底から憤りを感じた。
 と同時に何かが。
 そう、何かがアンジェの脳裏にひっかかる。
『特殊』
『博士』
 その単語に、妙な不安を感じるのだ。
 その言葉を聞いた記憶は一度も無いのに。言われた事も会った事も無いはずなのに。
 また、左腕が疼く。そこには、レイのような“印”は無い。
 それなのに――
 アンジェは目をつぶり、深く息をついた。
 考えない。知らなくていい。
「……大丈夫。大丈夫なんだ」
 自分に言い聞かせるように、アンジェは何度も何度もそう繰り返した。
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