FAKE‐LAKE
「なんだ、俺がいなくて寂しい寂しいと泣いてたのか?」
 上着をハンガーに掛けながら、セティは黒髪の青年をからかう。
「泣くかよ、ガキじゃあるまいし」
 と言いつつ、アツキはセティの後をついて回った。
 しばらく無言で家を空けた後、決まってアツキは側に居たがる。彼がそうするのは、単に寂しがり屋なだけでない事にセティは気づいていた。
 アツキは、誰かが突然消えてしまう事が怖いのだ。
「そうか、そんなに“お兄ちゃん”が恋しかったのか」
 セティは何気ない振りをしてアツキの反応を試した。案の定、“お兄ちゃん”という言葉にアツキの表情が一瞬固くなる。
「……なわけあるかよ」
 無愛想に言い、アツキはセティに背を向けて窓の外を見た。
 ガラスに映った黒い瞳が、涙を流さずに泣いていた。
「アツキ」
「何だよ」
 セティは椅子に深く座り、黒い服の背中に問いかける。
「今日も“仕事”なのか?」
 アツキは答えない。振り向かない。それが彼の肯定の返事だ。
「俺は反対だからな、アツキ」
「あんたに関係ないだろ」
 間髪入れずに低い声が反発する。
「金のためじゃないなら止めておけ」
「は、じゃ金のためならいいのか?」
 セティの言葉を鼻で笑い、アツキは振り返った。真剣なセティの目が、触られたくない本心まで見抜いている気がして苛立ちを覚えた。
「人の物を奪って不安を煽って。それでお前は何を手にした?少しでも幸せになったか?」
 怒りのこもった鋭い睨みにも怯まず、セティは言葉を続ける。アツキはぐっと拳を握りしめた。
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