FAKE‐LAKE
出来れば言い合いはしたくない。なのにセティは言葉を止めてくれない。
「官僚や資産家を不安にさせれば、お前の兄貴は帰ってくるのか? 泥棒のお前を見て兄さんは喜ぶと思うのか?」
「うるさい!!」
ガシャン、と本棚のガラス戸が派手な音を立てて砕け散る。一番触れられたくない所に入り込んでくるセティに、アツキは感情を爆発させた。
「あんたに何が分かるんだよ!!」
ガラスを殴った左手に血が伝う。
「そうさ、俺が泥棒なのは金のためじゃない、復讐のためさ。何も手にしてなけりゃ幸せでもない」
でも、と続けるアツキの怒りは悲しみの反動だとセティは知っていた。だからこそ盗みをやめさせたいのだ。
「あいつらは俺から兄貴を奪った。これ以上にない程残酷に兄貴を殺した。金と不安で済んでる事を有り難く思って欲しいくらいだ」
握った拳から落ちる赤い血は、まるでアツキの心から流れているように見えた。幼い時に負ったその傷は今なお癒えていない。
「手を出せ。手当てする」
溜息をついてセティは鞄を開けた。
「舐めときゃ治る。放っといてくれ」
「アツキ」
意地をはるアツキに、セティの口調が厳しくなった。
「お前の気持ちは分かる。でも憎しみはお前の事も誰の事も幸せにしないぞ」
部屋の空気がさらに張り詰めた。長い前髪の間から睨んでいるアツキの瞳に殺気に似たものが浮かんだ。
「……綺麗事なんか聞きたくねぇよ」
乱暴に扉を閉め、アツキは部屋を飛び出して行った。訪れた静寂にセティは頭を抱える。
アツキの傷は、自分が考えていたより深い。手当てを拒んだのは、手の傷の事だけではないのだろう。心の傷も、腫れている時に触られたら声をあげたくなる程痛む。彼の攻撃的な言動は、倦んだ傷を抱えた心の悲鳴なのだ。
どうしたら、痛みを最小限に抑えて治療してやれるだろう。
一番の着信ランプが光った。セティの顔に緊張が走った。
「官僚や資産家を不安にさせれば、お前の兄貴は帰ってくるのか? 泥棒のお前を見て兄さんは喜ぶと思うのか?」
「うるさい!!」
ガシャン、と本棚のガラス戸が派手な音を立てて砕け散る。一番触れられたくない所に入り込んでくるセティに、アツキは感情を爆発させた。
「あんたに何が分かるんだよ!!」
ガラスを殴った左手に血が伝う。
「そうさ、俺が泥棒なのは金のためじゃない、復讐のためさ。何も手にしてなけりゃ幸せでもない」
でも、と続けるアツキの怒りは悲しみの反動だとセティは知っていた。だからこそ盗みをやめさせたいのだ。
「あいつらは俺から兄貴を奪った。これ以上にない程残酷に兄貴を殺した。金と不安で済んでる事を有り難く思って欲しいくらいだ」
握った拳から落ちる赤い血は、まるでアツキの心から流れているように見えた。幼い時に負ったその傷は今なお癒えていない。
「手を出せ。手当てする」
溜息をついてセティは鞄を開けた。
「舐めときゃ治る。放っといてくれ」
「アツキ」
意地をはるアツキに、セティの口調が厳しくなった。
「お前の気持ちは分かる。でも憎しみはお前の事も誰の事も幸せにしないぞ」
部屋の空気がさらに張り詰めた。長い前髪の間から睨んでいるアツキの瞳に殺気に似たものが浮かんだ。
「……綺麗事なんか聞きたくねぇよ」
乱暴に扉を閉め、アツキは部屋を飛び出して行った。訪れた静寂にセティは頭を抱える。
アツキの傷は、自分が考えていたより深い。手当てを拒んだのは、手の傷の事だけではないのだろう。心の傷も、腫れている時に触られたら声をあげたくなる程痛む。彼の攻撃的な言動は、倦んだ傷を抱えた心の悲鳴なのだ。
どうしたら、痛みを最小限に抑えて治療してやれるだろう。
一番の着信ランプが光った。セティの顔に緊張が走った。