FAKE‐LAKE
この屋敷でセティに会い、兄といるような安心感を感じた。少し変わり者だけれど。
純粋で優しいリーナに恋心を抱き、いらないと思っていた幸せに手を伸ばしたくなったりもした。足を洗おうと何度も思った。
その度に蘇る兄を殺された悲しみ。殺した奴らに対する憎しみ。行き場を無くした感情が、彼を盗みに駆り立てる。
「俺は、どうしたらいい……?」
涙はとうに凍り付いてしまった。そして簡単に解けそうも無い。
「教えてくれ……誰か……」
胸が潰れそうな苦しさに思わず呟いたSOSを、扉の向こうでリーナが聞いていた事にアツキは気付かなかった。
「はい、計画通りに進めております。……いえ、まだそこまでは……はい」
セティは緊張した面持ちで通話相手と話していた。全神経を相手の言葉に集中させて。
「了解しました。はい、このまま進めます。……はい、必ず」
小さく息をついて電話を切った。
途端、すぐに二番に着信が。セティは深呼吸し、受話器を取った。
「はい、……これは博士、ご連絡ありがとうございます。……明日ですね。分かりました……はい」
セティは近くのメモ用紙を引っ張り、何やら書き付ける。
「勿論です。……はい、よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をし、電話が切れた事を確認して受話器を置いた。
しばらく机に突っ伏して、一気に殺到してきた情報を頭の中で整理する。自室の本棚と同じように全てをきちんと分類した後、セティは教授に電話をかけた。
「教授、セトナです。昨日診察に行きました。……ええ、身長が伸びましたよ。食事も以前より食べているようですし、薬もきちんと飲んでいます」
ただ、とセティは声をひそめた。
鞄からセロハンの袋を取り出し、走り書きしたメモの上に置く。中には一本の糸屑らしき物が入っている。ただの細い白糸に見えるそれは、紙の白の上で微かな水色を呈していた。
「最近、アンジェ以外に人の気配がします。……いえ、聞いていません。アンジェは隠しているようですが、気になる物を見つけまして……注意が必要かと」
教授に報告をしながら、セティは続けて取り出したファイルを開いた。ウィリス・フロスト博士から渡されたそのファイルには“テスト”の経過と実験体の名前が書かれていた。
『R:AL-M ――レイ』
純粋で優しいリーナに恋心を抱き、いらないと思っていた幸せに手を伸ばしたくなったりもした。足を洗おうと何度も思った。
その度に蘇る兄を殺された悲しみ。殺した奴らに対する憎しみ。行き場を無くした感情が、彼を盗みに駆り立てる。
「俺は、どうしたらいい……?」
涙はとうに凍り付いてしまった。そして簡単に解けそうも無い。
「教えてくれ……誰か……」
胸が潰れそうな苦しさに思わず呟いたSOSを、扉の向こうでリーナが聞いていた事にアツキは気付かなかった。
「はい、計画通りに進めております。……いえ、まだそこまでは……はい」
セティは緊張した面持ちで通話相手と話していた。全神経を相手の言葉に集中させて。
「了解しました。はい、このまま進めます。……はい、必ず」
小さく息をついて電話を切った。
途端、すぐに二番に着信が。セティは深呼吸し、受話器を取った。
「はい、……これは博士、ご連絡ありがとうございます。……明日ですね。分かりました……はい」
セティは近くのメモ用紙を引っ張り、何やら書き付ける。
「勿論です。……はい、よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をし、電話が切れた事を確認して受話器を置いた。
しばらく机に突っ伏して、一気に殺到してきた情報を頭の中で整理する。自室の本棚と同じように全てをきちんと分類した後、セティは教授に電話をかけた。
「教授、セトナです。昨日診察に行きました。……ええ、身長が伸びましたよ。食事も以前より食べているようですし、薬もきちんと飲んでいます」
ただ、とセティは声をひそめた。
鞄からセロハンの袋を取り出し、走り書きしたメモの上に置く。中には一本の糸屑らしき物が入っている。ただの細い白糸に見えるそれは、紙の白の上で微かな水色を呈していた。
「最近、アンジェ以外に人の気配がします。……いえ、聞いていません。アンジェは隠しているようですが、気になる物を見つけまして……注意が必要かと」
教授に報告をしながら、セティは続けて取り出したファイルを開いた。ウィリス・フロスト博士から渡されたそのファイルには“テスト”の経過と実験体の名前が書かれていた。
『R:AL-M ――レイ』