FAKE‐LAKE
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 あれはいつの事だろう。時間の感覚も視界も空間も、ぐんにゃりと歪んでいるように感じた。
 体が動かない。目も開かない。ただ、耳の感覚だけははっきりしていて、周りの会話や音を聞き取っていた。
「迷惑をかけてすまない、セトナ。しかし君にしか頼めなくて」
「大丈夫ですよ、教授。今夜中に移します。ただ、場所はあなたにも教えません……知っている人間は少ない方がいいですからね」
 おじさん、誰と話してるの?
 そう聞きたいのに口が動かない。ふわり、と誰かに抱き上げられた感覚が不安を煽る。
「落ち着いたら連絡してください。アンジェの体調や様子等報告しますから」
 本当にすまない、と謝るおじさんの声がする。
 ねぇ、おじさん。僕はどこに連れていかれるの?
 嫌だ、嫌だよ。おじさんと離れたくない。
「アンジェ、ごめんな……」
 泣きそうなおじさんの声が耳元で聞こえる。
 ねぇ、何が“ごめん”なの? おじさんといられて、僕は嬉しかったのに。
「一つ聞かせて下さい、教授。博士のこの研究に協力的で、人間兵器にするためにアンジェを自分の手でさらってきたあなたが、どうして考えを変えたのですか」
 若い男性の問い詰めるような声が部屋に響いた。
 ……にんげんへいき? さらってきた?
 ねぇ、何の事? 博士とおじさんは“なかま”だったの?
 嘘、嘘だよ。おじさん、嘘だって言って。
「君の言う通りだ。私はこの子をさらってきた。完璧な兵器にするために手なずけようとして優しくもした」
 アンジェの耳に届く声が、音が歪み始めた。
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