音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「なんだか、手が痛そうだよ」


あたしの針が刺さっている手をそっと撫でてくれた。


「今は全然痛くないんだよ。
腕を振り回すことだって出来ちゃうんだから」


午前中に点滴は終わっているから、今は長いチューブが無い。


チョロッと短いチューブが針からから延びているけど、それはしっかり固定してあるから動くことはない。



「見ていてね!」


優ちゃんに元気な姿を少しでも見せようと、右腕を少し持ち上げた。


見ていて。
ちょっと針が刺さって病人っぽく見えるけど、実際はメチャクチャ元気なんだから。


あたしは大きく腕を振り回そうとした。



――― ガシッ。


「………えっ」


突然、ヒジを掴まれた。




ねえ、いっくん。
どうしてそんな事するの?


ここに来たってあたしと目も合わせようとしなかったじゃん。
それに今だって、あたしを見ていないじゃん……

いっくんは何を考えているの?


いっくんに掴まれた右ヒジはそっと、ヒザの上に置かれた。









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