音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
おばあちゃんと手を繋いでいる女の子が羨ましく思う。


まだ保育へ通っていない、小さな小さな女の子。


これからの人生。
ケンカしたり怒られたり……
辛い経験を知らない無邪気なあの頃。


あたしにもあった、幼い頃。

あの子を見ていたら何も知らないあの頃に戻りたくなった。




いつからあたしは辛い事を隠すようになったのかな?


本当は今だって辛い……
もう治療なんか辞めて逃げ出したい。


学校へ行きたい。


それでも耳は大切。


それは、誰よりもあたしが一番分かっている。


だから『辛い』とは言わずに『大丈夫』と言ってしまうのかも知れない。



今は……
外を歩いている人を見るのは辛すぎる。


何も関係無い人を悪く言ってしまいそうで、自分が怖い。


どうしようもない、黒い気持ちがグルグルあたしの心を黒く染め始めている。









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