音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
距離が縮まるのはあっという間。
いっくんが目の前に立っている。


「辛い時は“辛い”って言っていいんだからな?
泣きたい時は泣けばいい」


どうして、いっくんは怒っていると思ったら次は優しい言葉を言うの?


そんな事、言われたら。


――― 我慢、出来ないよ。



「“泣き虫まお”に我慢なんて似合わねーよ」


泣き虫じゃないし。


でも。
目にはなんだか熱い物を感じるの。


強く噛み締めても、我慢出来そうもないよ。



「……… いっくんのバカッ」


目の前に立つ、いっくんのお腹にコツンと頭を預けた。


どうしてかな?
先生に『突発性難聴』って診断されても涙を我慢出来たのに。


いっくんに『泣いていい』って言われたら、涙が我慢出来ない。
決壊したら、ダムみたいに次々と溢れ出てくる。


これは、嬉しさの涙?
悲しみの涙?






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