音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~




常に何か“音”を聞いていなくては不安になる。

テレビ、音楽、ケータイでも……。


どこでもいい。

なんでもいいから“音”を聞いていたい。


一人ぼっちだと不安だけど、一人になりたい。

安心したいけど“不安”を家族へは感じさせたくない。


きっとあたしが“弱音―――”を吐いたら、みんなに迷惑かかる……。


あたしが弱くなってはダメ。

強くならなくちゃ……。


「まお、終わったよ?」


「あっ、うん」


ボーっとしていたら会計まで終わってしまった。

シャキッとしなきゃっ!


「大丈夫?」


眉を下げ、あたしの体調を心配するその表情―――。

あぁ、こんな顔…… ママにさせたくなかったな。


「大丈夫だよ。 パン屋さん、行こ」


耳が聞こえなくなって、もちろんあたしもショックだった……。

でも、あたしと同じくらいママたちだってショックだったんだよね。


あたし、頑張って強くなるから。

治療するから―――。


もうそんなママに心配させるような顔、させないように頑張るね。





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