『natural source』(naturally番外編)
こういう時は大抵、俺への用事だ。

視線の重なったユウセイが軽く頷いたのを見て、俺が退室の言葉を口にするより早く、


「……いってらっしゃい。ショウ」


こう言って微笑む彼女の瞳が、ほんの一瞬だけ寂しげに曇る。

この人はたまにこういう顔で俺を見る。
いつもは澄まし顔だったり飄々としてるのに……。


彼女の気持ちなどわかるはずもなく。
俺はその疑問に蓋をし、儀礼的に一礼してユウセイと連れ立って部屋を後にした。



「またやらかしたんだってな~。シュリお嬢様」


部屋を出るなり、並んで廊下を歩いていたユウセイがこう言って、にんまりと嫌な笑みを浮かべている。


「貴族連中を水浸しにしたんだろっ? クククッ。相変わらず綺麗な顔に似合わずじゃじゃ馬だな、あの方は」

「他人事だな。おまえ」

「当たり前だ。彼女はおまえのお姫様だろ? 全く良いコンビだよ」


誰が言い始めたのか。
いつも涼しげな澄まし顔の彼女と、いつも無表情の俺は感情の読めない似た者コンビらしい。

……どうせ言い出したのは隣のコイツだろうが。


そんな他愛ない会話で緩んでいた俺たちの空気は、目的の部屋のドアを前にピリッと引き締まる。


ユウセイに誘われてやって来たのは、俺たちの指揮官である騎士団長の部屋の前。



「失礼いたします」

「来たかショウ。ユウセイご苦労だったな」


ノックと共に部屋に現れた俺たちに、こう言って騎士団長はユウセイだけを部屋から下がらせた。
城内の騎士たちのまとめ役であり、現場の指揮官である団長。

マーセル国の治安保持を司られているお嬢様の父親、リューシュ様の信頼も厚い。


そんな団長が俺一人を呼び出す理由は一つしかなかった。


「近々、どこぞの国の鼠が忍び込むぞ」

マーセルは平和な国だ。
反面、影から平和を脅かす者もいるのが現実なのだ。
< 36 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop