『natural source』(naturally番外編)
「お嬢様……」

「どうしたの? ショウ」


少し呆れた表情を浮かべて俺は、自分がお仕えしている人に呼びかけた。
俺より八つ年下の彼女は、父親譲りの切れ長で綺麗な二重に母親譲りの上品な口元をした美しい顔で俺に振り返る。


「また、お嬢様を訪ねて来られた貴族の方にわざと違う部屋をお教えしましたね」


さっきから変わらない表情で俺を見ていた彼女はわざとらしく首を傾げてみせる。

これもいつものこと……。



「挙げ句ずぶ濡れにさせて……」

「不慮の事故よ。お掃除用のバケツに突っ込むなんて」



やっぱり掃除中の部屋に行くように仕向けたな……。
しかも、わざと水の入ったバケツを扉の近くに置かせたりして。


「後片付けが大変です」

「あっ、ごめんなさい。次は粉石鹸にするわ」

「……それも同じです」



この美しい外見に騙されて近づいてくる貴族の男共に、わざと悪戯を仕掛けるのが近頃の彼女の趣味。

お世辞にも良い趣味とは言えない。

……確かに、訪ねてくる貴族たちはどいつもこの人に見合うような連中ではない。
だが、あまりぞんざいにし過ぎるのも、悪評を広められないかとヒヤヒヤさせられる。
貴族なんてのは自尊心の無駄に高い、見栄っ張りばかりだからな。


なんて懸念していた俺の心情なんて知る由もなく、何事も無かったかのような飄々とした表情で彼女がこちらを見つめている。


お互いに何か言いたいのに無言のまま。

そんな風に思える不思議な空気が、彼女と俺の間に流れる部屋に、



「失礼します。シュリお嬢様」


ノック音と共に同僚のユウセイが現れ、なんとも恭しい一礼をしながら入ってきた。


一介の騎士であるコイツが、彼女に用事があることはあまりない。


尤も、俺と旧知の仲なことでこのお嬢様とも、それをネタにちょくちょく話しているのは見掛けるが……。


わざわざ部屋を訪ねてきたということは、きっとそんな他愛のない世間話というワケではない。


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